「…ね、先生」


 先生はひとつ瞬きして私を見る。


「…もっと傍に来て」

「……」

「一緒がいいの」

「……」

「こっちに来て?」


 先生が、まるで一度止まってしまった呼吸を吹き返すみたいな掠れた溜め息を吐く。


「…お前

 自分の言ってる意味、分かる?」

「……

 分かるよ。そんな子供じゃない」

「……」

「先生が欲しい、全部」

「南条…」


 先生の手にきゅっと力がこもる。
 加速する鼓動。身体中が火照っていく。


「やっぱ無理って途中で言われても、止められる自信ないぞ俺…」

「言わないよ」


 もう一方の手も添えて両手できつく手を握り締められる。
 きらりと瞳が煌めくと、想いが溢れるように熱い唇が強く重ねられた。


(先生…)


 熱い吐息。求める唇。互いが互いを欲し合う。

 先生が布団の縁をそっと捲る。


「……

 大丈夫。後悔はさせないから」


「ん…」


 先生はカーディガンを脱ぎ捨てベッドに潜り込むと、幽かに震える腕で私を抱き締めた。


「先生…」


 私は先生の背中に両腕を回す。
 髪を掻き撫でられ、強く強く、一分の隙もないほど抱き締め合う。

 先生の体温。先生の香り。

 速まった鼓動は緩まることがない。静かな部屋に重なり合ったふたりの心音が響く。


 後悔なんてするわけない─

 今ここにこうして貴方がいて、私がいる。

 それがなによりの幸福なんだから。


 幾度となく口付けを交わし、その唇が頬に首筋にと伝っていく。



「舞奈…愛してる…」



 吐息混じりの声が耳元に囁かれ、先生の指がルームウェアのボタンに掛かった。



「私も…愛してるよ、先生…」



 カーテンの隙間から漏れる雪明かりが細く私たちを照らす。

 今夜、ただこの純白の雪だけが、私たちの密事を垣間見ていた。

        *   *   *