「まだ起きてたの?早く寝ろよ。試験に響くよ」

「う、うん…」


 お風呂上がりの先生が髪を拭きながらリビングに入ってくる。濡れた栗色の髪が艶っぽくて、私は慌ててそっぽを向いた。


「先生、どこで寝る?」

「ん?俺、ソファ。南条はベッド借りな」

「狭くない?」

「平気。今日は雪と給湯器の修理で疲れたからどこでも秒速で眠れる」

「そう?」

「ほら、寒いし早く寝な」

「うん…じゃあ、おやすみなさい」


 ベッドルームのドアを閉めるとベッドに潜り込んだ。


 でも…

 隣の部屋に先生がいる。


(緊張しちゃって眠れないよ)


 枕元のスマホを開く。少しでも気を紛らわせたら眠れるかな…

 次々とページを繰る。雪のニュース、お気に入りのアーティストのインスタ、英文法の入試必勝サイト…


 ガタン…!


(あ、いけな…うつらうつらしてスマホ落としちゃった)

 床の上のスマホに手を伸ばす。


 と、その時…


「南条起きてるの?」

「!」


 ドアの向こうで先生の声。


「う…うん」

「眠れない?」

「…うん」

「明日試験だもんな、緊張するよな」

「……」


(違うよ…先生に緊張してるんだよ)


「……」

「……」

「…なぁ南条」

「っ!…はい!」

「……

 そっち、行ってもいい?」

「!!」


 胸がドキンと跳ね上がる。


「駄目?」


 早まっていく鼓動。

 何て答えたらいい?─