「ちゃんと戸締まりしろよ」

 先生が靴を履く。そして玄関まで見送りに出た私の頭を優しく撫でると、背を向けてドアノブに手を掛けた。



「…先生!」


 私は先生のダウンの裾を掴む。先生が驚いたように振り返った。

 ダウンを引く手にぎゅうっと力が入る。
 私は意を決して思いを口にする。


「せっ、先生も泊まっていったら?あっ、電車も何時に着くか分かんないし…それにあの、まだ雪も降ってるしっ!」

「……」


(先生ともっと一緒にいたいの!)


 電車が遅れてるとか、雪が降ってるとか、先生が休めないとか、そんなのは全部全部言い訳。


 一緒にいたい。

 ただそれだけ─


 震える手。泳ぐ視線。

『先生も泊まっていったら?』なんて、いくらなんでも大胆過ぎた…?

 先生はどう思ったろう…


「南条」

「…!」


 先生の声に肩がびくっと震える。


「…いいの?」

「え…」

「あ、いや、変な意味じゃなく…
 その…俺泊まってってもいいのかなぁ、って」

「!
 いいよ全然!だ、だってこんな凄い雪だもん、私も心細いし!」


 慌てて言い募る私に先生は眼を細める。


「じゃあ…お邪魔させてもらおうかな」

        *   *   *