それから一度先生が残り湯の入ったケトルを取りに戻ったきり1時間が過ぎた。


(時間掛かり過ぎだよね…きっと外寒いだろうなぁ)

 小さなお鍋でお湯を沸かし、二人分のコーヒーを淹れる。


 カップを手に外に出ると給湯器を覗き込んで作業していた先生と半田さんが顔を上げた。


「あ、すみません…あの、寒いから良かったらこれ飲んで下さい」

「うゎあ、コーヒーだっ♪舞奈ちゃん天使!!」

「ちょっと待て」

 飛び付きそうな勢いの半田さんを先生が制す。


「南条、風邪引くといけないから中で参考書でも見てなさい」

「あ、はい…」

「昴さん、コーヒー頂きましょうよ!いやーめちゃめちゃ寒かったから生き返るわー!」

「駄目。まず給湯器直してから」

「えっ!折角のコーヒー冷えちゃいますよ!?」

「お前なんか舞奈のコーヒー飲めるだけでありがたいと思えよ」

「昴さぁぁぁんん~っ」

「やっぱり二人仲良しですね」

「どう見ても仲良しじゃないだろう…」

「舞奈ちゃーん!頑張るからねー応援しててねー!」

「はい!よろしくお願いします」

「舞奈はほら、中で待ってて。半田、早くしろよ、舞奈が冷えるから」


(先生いつの間にか名前で呼んでるし…)



 それから更に30分ばかりが経って、ようやく給湯器は復旧した。


「先生寒かったでしょう!戸棚にスープ見つけたから今作るね。ごはんにしよう」

「待ってたのか?先食べてて良かったのに」


 こんな何でもないやりとりに

(なんか新婚さんみたい!)

なんて、スープの器をかき混ぜながら思わずにやにやしてしまう。


 ふたりで囲む食卓はなんだか恥ずかしくて、でも嬉しくて。

 スープを飲みながら先生が言う。

「南条は気が利くよな。良い嫁さんになりそうだ」

「!

 それって誰の?」

「え…」


 カップを持つ先生の手が止まる。


「…俺じゃ、駄目?」

「!!」


 先生の視線に胸がきゅんと高鳴る。

(これって…プロポーズ…?)


「私も…先生が良い」


 照れて俯くと、先生の腕がこちらに伸びて肩を引き寄せられ、おでこにちゅっとキスが落ちた。