「ったく、油断も隙もねー…
 あ、南条晩飯食う?コーヒーでも淹れようか?」

「うふふ!仲良しなんですね」

「え…今の見て仲良しだと思うか…?」

 だって友達といる時の先生の姿はいつも見ている先生と違ってまた新鮮で、私だけがそんな先生を見られる特別感が嬉しいんだもん。


 夜璃子さんの家はソファとローテーブルの置かれたリビングダイニングの奥にベッドルームがある2Kで、私はそのベッドの脇で荷物を解き始めた。


「あ、南条。俺飯食ったら行くから」

 服や参考書を取り出していると、ケトルに水を汲む先生の声がキッチンから飛んでくる。


「え?どこに?」

「今夜は実家泊まって、また明日の朝来るからさ」

「あ、うん…」


 そっか…もっと一緒にいたかったな…


「あれ?」

 しばらくしてまたシンクに弾ける水音と共に先生の声が聞こえた。


「どうしたの?」

「いや、なんかお湯が出ない…」

「え?」

「おかしいな。随分流してるんだけど」


 小さなキッチンで先生が給湯器のリモコンパネルを覗き込んで難しい顔をしている。

 しばらく先生はピッ、ピッとパネルをあちこち押していたけれど、やがて

「悪ぃ。ちょっと半田んとこ行ってくる」

と言って部屋を出ていった。


 程なくして先生と半田さんが戻ってくる。


「あっ、舞奈ちゃん!また会ったねっ」

「無駄口いいから早くなんとかしろって」


 今度は半田さんがパネルをいじって蛇口を捻る。でもやっぱりお湯は出ないみたいだ。


「外の給湯器が凍結してんじゃないすかね」

「直せる?」

「うーん、どうかなぁ…」

「工学部だろ」

「いや、工学部そういう学部じゃねぇすから…
 とりあえず見てみましょ」

 半田さんの後を先生がダウンを羽織りながら出て行った。

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