「せんせ…」

 ぐいと肩を引き寄せられ、先生の方に向けられる。

 暗がりの中、先生の瞳がドアの上の磨りガラスからうっすらと射し込む灯りを反射して瞬いているのだけが見えた。いつもの優しげで柔らかなものではなくて、どこか雄々しくぎらつく眼光にはっとする。


 次の瞬間、荒々しく唇を奪われた。


「んっ…!」


 唇が唇を求め、貪るようなキス。
 先生の腕に力がこもり、苦しいほど強く抱き締められる。


「は、ぁ…」

 吐息が漏れると、それさえも逃すまいとばかりに更に深く口付けられる。
 舌先が私の唇に触れ、幽かに開いた隙間をなぞる。


「ぁ…や…」


 思わず声を漏らすと先生は「はぁ…」と悩ましげな溜め息を吐きながら僅かに唇を離す。


「南条…その声駄目。抑えが効かなくなる」


 眼の前の先生の熱っぽい瞳に私はわざと呟く。


「…や」


「!」


 先生は堰が切れたように私の手首を掴むとぐいと引いて、私の身体を壁に押し付ける。そしてそのまま熱く激しい口付けを落とす。


「んっ…」

 もう一度舌先が唇をなぞるとそのまま唇を割って私を奪う。絡み合って溶け合って、意識は雪に埋もれるように白んで遠退いていく。
 ふらふらと先生に身体を預けると、先生は私を抱き留めて、それから、まるで溶けた私を絡め取って食べてしまうように口付けはいっそう深く甘く色っぽくなっていく。
 熱く力強い先生の腕の中で、それに応える私の唇もいつしか自分のものとは思えないほどふしだらになる。


(先生、先生…
 私を全部奪って。私も先生が全部欲しい…)


 やがて先生は名残惜しそうに唇をついばみながらゆっくりと離れると、荒く息をつきながら囁く。


「ずっと…こうしたかった」

「先生…」

「南条のこと想わなかった日なんてなかったよ。触れたくて、抱き締めたくて…苦しかった」

「先生…私もだよ」


 熱を持った唇をもう一度重ねる。