普通なら30分くらいの距離なのを、1時間近くかけてようやく大学と夜璃子さんの家の最寄り駅まで辿り着いた。

 まだ雪がしんしんと降り続く空はすっかり暗い。

 駅前の大型スーパーで晩ごはんを買って、バスに乗る。


「うふふ!」

「何?」

「ふふっ!なんかさぁ…」

「なんだよ?」

「なんか…一緒に住んでるみたいだなって」

「……」


(あ…)

 先生から応えがなくて、恥ずかしくなって俯いた。

(言わなきゃ良かった…)


 そう思っていると、先生の掌がぽんと私の頭に乗せられる。


「…可愛いな、お前」


 薄暗いバスの車内灯の下、ほんのり紅い頬で甘く微笑む先生が言った。


 10分程でバスを降りるとふたり手を繋いで雪道をきゅっ、きゅ、と踏みしめて歩く。


「きゃ…」

 途中深い雪に足を取られそうになる度、先生がしっかりと手を引いてくれる。


「あそこだよ」

 先生が指す建物はレンガ風のタイルが可愛らしい2階建てのアパートだった。
 雪の積もった外階段を私が先に、先生が後ろからそっとそっと上る。2階の3軒目が夜璃子さんの部屋らしい。

 かじかんだ指で鍵を開ける。
 小さな玄関に入ると、留守の部屋の湿った匂いがほんのりした。

 ガチャン。

 ドアが閉まり真っ暗になる。


「あ、電気…」

 手探りで壁際を辿ろうとした時、


「南条…」

 掠れた声で呼ばれ、背中から力強く抱き締められた。