「…なん、で…?」
「祖父が危篤で」
「え…」
「って適当に言って午後の授業すっぽかして南条に逢いに来た」
「!?」
また夢を見てるのかな、私。
あぁきっと電車で寝過ごしちゃったんだ。早く起きなきゃ…
「……」
「何ぼーっとしてんの」
先生の指が私の頬に触れる。
優しく温かな感触はやけにリアルな夢なの?それとも…
「久しぶりだね」
「……」
「どうした?」
「…夢、じゃないの…?」
「……」
先生はふっと笑うと素早く私を抱き寄せて、おでこにひとつ、キスを落とした。
「!」
「夢だと思う?」
私は真っ赤になって、ふるふると首を振る。
そんな私を見て、先生は満足そうに微笑んだ。
「でっ、でもどうして今の電車だって分かったの?」
「夜璃子に聞いた。自由席しか取れなかったから中で会えなかったけど」
そっか、夜璃子さんには乗る電車教えてあったものね。
「さ、とりあえず行こうか。どれだけ電車動いてるか分からないけど」
先生は私の手からボストンバッグを取ると反対の手で私の手を握り、混み合うコンコースを歩き出した。
(まだ現実だと思えないよ。
だって春まで逢えないと思ってたのに、ましてこんな遠く離れた東京の真ん中で先生に逢えるなんて…)
『1番線に停車中の列車は遅れております快速…』
「とりあえず乗ろう。遠回りしてもどうせどっかで引っ掛かるだろうし」
混雑する列車に乗り込むと先生は網棚に二人分のバッグを置いた。
「ごめんな、南条。『別れよう』なんて言いながらこんな所まで逢いに来て」
私は小さく首を振る。
「東京で大雪って聞いてさ、これは山の方に行く電車は止まるな、と思って、南条が困ってる姿が過ったら学校飛び出してた」
先生は少し照れたように髪をくしゃくしゃと掻いて笑う。