星の向こうできみを待っている。





昔、誰かから聞いた。

瞬く星の向こう側に天国という場所があると。


なぁ、希愛。


きみは今、

そこで、どんな景色を見ているのかな。


そこで、なにを想っているのかな。




たとえ、目には見えなくても。

たとえ、隣にいなくても。



俺はいつだってきみを想っている。



もしも、永遠という世界で

きみにまた巡り逢えることができるなら


その時は、もう一度

きみと恋がしたい。





─ピッピピ…


規則的になる機械音。


鼻につく薬のニオイ。


重たい瞼を開けると、白い光がぼんやりと広がった。まるで、真っ暗な世界から現実に引き戻されて行くかのように。




「おはよう。気分はどう?」


隣にはあたしの腕に点滴をつける看護師さん。


点滴をつけるために捲られた袖からは、不健康そうな白い腕が出ており、何度も点滴を繰り返してきた証である痣が嫌というほど目立っていた。


「びっくりするくらい変わらないよ。あたしさ、本当に死ぬのかな?」


一瞬、時が止まったような気がした。だけど、止まったのは時間ではなく、点滴をつける看護師さんの手。

「希愛ちゃん、それは…」


言葉に詰まる看護師さん。
同時に気まずそうな顔。

なんでそんな言いづらそうにするかなぁ。


あたし、星宮 希愛(ほしみや のあ)は生まれつきの病気のせいで、ずっと入院している。



治らないと分かっていても終わらない治療。


早く楽になりたいなぁ…。



ふと、窓の外に目をやると嫌なほど晴れていた。

雲一つない空はあまりにも綺麗で。

そんな空はどうしても好きになれない。

どちらかというと、どんよりした暗い天気が好き。

あたしの心と似ているせいか、仲間ができたみたいで落ち着くの。




「やだやだ!!おうちかえる!」


「わがまま言うな。ちゃんと手術して病気治そうな」


「おなかきるなんてやだ!いたいのやだ!」


はっきりしない意識の中、聞こえてくる声。

…誰かいる?


瞼を開け、軽く目をこすると、隣には角度のついたベッドで駄々をこねる小さな男の子と、対応に困る背の高い男の人がいた。


することもなく、寝ているだけの毎日。

寝ている間に何かあるのはいつものこと。

だから、たいして気に留めず、もう一度瞼を閉じようとした時───。



「ケホッ…」


…いきなりむせた。

「ケホッ…ケホッ」


むせながらも、台の上に置かれたお茶を飲み、落ち着かせる。

空になったペットボトルを置こうとした時、こっちを見ている男の人と目が合った。


その瞬間、何故か心臓がドクンと大きく脈打った。

きらきらの金色の髪。

胸元と耳を飾るシルバーのアクセサリー。

長い前髪の向こうには切れ長の目。

世にいうヤンキーって人。

初めて見た。

「…大丈夫か?」


目を細め、まるで睨まれているみたい。

だけど、その見た目とは裏腹に優しい温もりのある声。

だからなのかな…。

思わず笑っちゃった。

だって、そんな怖い顔して聞くことじゃないでしょ?

ただ、彼はそれが気に入らなかったのか、「チッ」と舌打ち。


「平気だよ。いつものことなの」


不機嫌な彼を無視して、返事をするあたし。

病院の関係者以外の人と話すのなんていつぶりだろう…。


「おねえちゃん…」


その時、男の子に呼ばれた。か細い声に鼻は真っ赤。大きなまん丸の目には、涙を溜め、一度でも瞬きすればこぼれ落ちてしまいそう。

星の向こうできみを待っている。

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