それから、俺は自信をなくして、ただの素直になれないチキンになった。
事故物件、一歩手前となってしまったのだ。
何回も諦めようと思った。
どうすれば、俺のことを好きになってくれるかもわからなかったし。
他に彼女を作って、忘れようとも思った。
でも、やっぱり桃李以上にかわいいって思えるヤツ、いない。
結局最後には、桃李が一番好きだと思ってしまう。
でも、桃李は俺のことをそんな風に思ってない。
フラれるのが…恐い。
好きだと伝えて、変にギクシャクするぐらいなら、このままでいい。
…これが、俺がチキンでいた理由。
素直になれなかった理由。
今となっては、くだらない事情だった。
ホント、くだらねえし。
カッコ悪さを隠す振る舞いは、結局カッコ悪いダメなヤローを露呈するカタチとなっていた。
…だけど。
今となっては、そんなことどうでもよかったんだ。
もう、カッコ悪くたって、構わない。
そうでないと、前に進めない。
考えながら歩いていると、すぐに辿り着いてしまった。
気付いたら、そこはもうパンダフルの前だ。
ついに、到着してしまった…。
すでに看板はしまってあり、『close』の札がかかっていて、電気は消えているが。
奥からの弱い光が、カーテンのかかった窓から僅かにもれており、厨房は電気がついているようだ。
まだ奥で作業してるんだろうか。
とりあえず、正面からインターホン。
押そうと手をかけた時。
店側のドアがガチャッと開いた。
「…あれ?なっちゃん?」
「あ、こんばんは…」
店側のドアから姿を現したのは、天パ眼鏡のおじさん。
桃李のお父さんだった。
頭をペコリと下げると、こっちにやってくる。
「あれ?学校帰り?」
「は、はい…」
「ひょっとして桃李かい?今、厨房にいるからここから入っていいよ?」
そう言って、店側のドアを指差している。
「す、すみません!」
「ゆっくりしていってね。中に残り物のパンあるから、食べていいよ?おじさん、川越さんち行ってくるから!」
「あ、ひょっとしてハイターズですか?」
「そうそう。今日勝てば日本シリーズだしね?苺はもう先に行ってるんだよ。今はまだ同点!あ、早く行かないと…じゃ!」
おじさんは思い出したように、急いで行ってしまった。
途中振り返って、俺に手を振っていたけど。