「じゃあ、この『ゆうなみ常務の女を口説くテクニック集』ってのは?」

「…見ねえし。ゆうなみ常務っていかにも怪しい人物、何者だ?うさんくせえな。おまえこんなの見てんの?」

「札幌のユーチューバーだって。キワモノ新商品を試す回が面白いんだけど。…あ、女を口説くテクニックはいらないか。そこに立っているだけで桃李以外の女は口説けるもんな」

「立っているだけで女口説ける?俺、体から何か変なオーラ出してんのか?あぁ?…あ、その道の駅行ってるヤツ見せて」

「自分で見ろ。はは。桃李に通用しないオーラ。何のオーラ?…いらねー。まあ安心しろ。おまえ、フェロモン出しまくってっから?」

「そっちの方がいらねえ…俺は虫か…」

「あ。虫けらヤロー、餃子食う?」

「食わない…」

「あ、そっか。これから桃李と話に行くのに、口臭気にしてる?ムカつくー」

「いや…違う」



理人は、餃子をリビングに持ってきてバリバリと食べながら、ナイター中継を見ている。

俺は…口臭気にして餃子を食わないのではない。

緊張してんだよ。このバカ。

わかってんだろ。




「…お?!ここでスクイズ?…同点じゃん!」

「うわー。今頃、川越のおじさんめっちゃ怒ってるよ?」

「今日勝てなかったら終わり?」

「終わり」




黙って一緒にナイター中継を見る。

時間になるのをまだかと待ちながら。

何回も時計見ちゃう。




「…っつーかさぁ。夏輝はハイスペックだからさー。ホントに過激な女ばかり寄ってくる。気をつけろよ。嵐さんも里桜もボーダーだよ。あれは」

「急に何を言い出すんだよ。ボーダー?何?」

「母さんたちの仕事の話聞かないの?話によく出てくるしょ。まあ、おまえは別にどうでもいいけど、桃李が可哀想だから言ってんの」

「桃李がってか…」

「女見る目養え。古嶋だって、夏輝が全然落ちないから、酒とカラダ使ったんだろ。ヤッちまったからって律儀に付き合いやがって」

「はぁ?俺ばっかりか?理人だって…」

「…で、7時過ぎてるよ」

「…何っ!」



時計を見ると、すでに7時も5分くらい過ぎていた。

理人とだらだらくっちゃべってたら、時間過ぎるの早い。

慌てて立ち上がって、カバンを持って玄関に駆け込む。



「早っ。ソッコーじゃん。張り切りすぎ」

「じゃあな。礼は言っとく」

「素直にありがとうございますって言え」

「はいはい。ありがとうございます」




素直に…か。



理人は見送りもせず、リビングから手を振っている。

「はいはい」とだけ答えて、家を出た。