そうだ。
あれは、ヤケになっていた。
…あの日。昨年の夏休み直前の頃。
試合と練習の帰り、小腹が空いてパンダフルに寄った時の話だ。
パンダフルに行く…桃李に会えるかも、なんて期待をしながら店に入ると、やはり桃李はいて。
しかも、桃李自ら焼いたクロワッサンをご馳走になることが出来て、かなりの勢いで至福の時を過ごしていた。
のに…。
『夏輝くーん!』
げっ。ここにもやってきた。
里桜。
…里桜は、学年一つ下の幼なじみ。
俺や秋緒、理人、凜とは幼稚園からの付き合い。
パンダフルの隣の隣に住んでいて、家も近い。
妹分?みたいな感じ。
なのに、ここ最近、俺の前にしょっちゅう現れるようになる。
『夏輝くんカッコいい!大好き!里桜と付き合って!カノジョにしてー!』なんて、顔を合わせる度に言われていた。
そんなの、もちろんお断りする。
三年になってから、桃李とやっと同じクラスになれた。
…俺の邪魔をするな!
しかし里桜は、俺の桃李に対する想いも知っていて。
『えー!だって、夏輝くん全然桃李ちゃんに相手にされてないでしょー?』
『桃李ちゃん、里桜が夏輝くんのカノジョになるの協力してくれるって言ったもーん』
…何っ!
好きな女が、俺と他の女がくっつくのを協力する?
この世の中、どうなってんだ。
俺と桃李の間に割り込むようにして、里桜は俺に話し掛けまくる。
そのうち、桃李は席を立ち、店じまいを始めていた。
あ…ちょっと!
里桜に離してもらえず、桃李には逃げられる。
その時。
里桜は、桃李に問いかける。
『私と夏輝くんってどう?お似合い?』
またこの女は…。
…しかし、桃李の一言に、俺はどん底へと突き落とされる。
『…そうだね』
ガーン!!
俺と里桜がお似合い…?
マジで言ってんのか?こいつ…。
(………)
かなり、イラッときた。
桃李に会いたくて、会いたくてここに来たのに。
…それぐらい大好きな人に、そんなことを言われるなんて。
桃李にとっては、何も考えてない些細な一言かもしれない。
…でも、俺にとっては多大なるダメージで。
十分傷付き、イラッとさせられる。
そのまま、そっけなく店を出て来てしまった。