理人の目が、チベットスナギツネになった。
いや、わかってる。その反応。
おまえの反応、正しいよ。
わかってるさ。
でも、一度聞いてみたかった…。
「…それ聞いちゃうの?だっせぇな」
「いや、わかってるよ?だっせぇ発言だってことぐらい。でも、聞いてみたいじゃないですか…」
「キモい。マジムカつく。教えたくない」
「そこを何とか…」
「何?そのダメっぷり。教室の真ん中でみんなが見てる前でも、そのセリフ吐ける?」
「…無理」
「でしょ?」
何だよケチヤロー。
おまえも、でしょ?って何かムカつくな。
俺的には、それなりに頑張ったその成果がいつから報われだしたのかを、こっそり知りたいだけなんだよ。
こっそりと…。
テレビから『わぁー!』と歓声が沸く。
ハイターズ四番の中谷、ホームラン打った。
先制点だ。
「…俺だって、桃李から相談されたワケじゃないんだよ。様子見てて勝手に気付いただけ」
様子見てて勝手に気付いた…?
「…何で様子見てるだけで勝手に気付けるんだよ。俺だってずっと見てたのに…」
「自分のことに鈍感なのに気付けるワケがないだろ。それに桃李自身も気付けてなかったんだし。っつーか、そういうところにすぐにムキになるなって」
ちっ。ムカつく。
すっげえムカつく。
俺だって、桃李のことは何でも気付きたいのに。
何でこの男は何でも気付けるんだ。
「…夏輝と里桜が付き合い始めた頃かな…」
理人は、何かを思い出すかのように、天井をじっと見つめて呟く。
「何だ。教えてくれんじゃん」
「ムカつくな。もうこれ以上話さない」
「すみません…」
しかし、里桜と付き合ってた頃…?
って、それ、昨年の話だろ。
その時から…?
「まぁー。いろいろあったんだけどさ…」
「いろいろって何だ。割愛すんな」
「そこの大事なところは教えない。夏輝、おまえがムカつくから」
「…このっ!」
「小さな頃から一緒に遊んでた二人が男女の関係になっちゃって、複雑になったんじゃないの?で、実はっていう自分の気持ちに気付いたんじゃない?」
「………」
綺麗にまとめすぎだろ。
…あの頃か。
(………)
今となっては。
それは、後悔が残るばかりで。
「何であの時に教えてくれなかったんだよ…」
「はぁ?」
もし、あの時。
この事を…桃李の想いを知っていたら。
…ヤケになって、里桜と付き合うことなんか、なかったのに。