「…当たり前だ。ここまで来て急に無しです言われて引き下がれるか。生憎、俺は諦めが悪いんだよ」
「頼もしいー」
理人の顔がウキウキとしている。
ようやくお望み通りになりましたかね?
ここに来て、一転。
テンアゲの押せ押せ状態となってしまった。
何をあんなに怯んでいたのか、わからないぐらい。
だけど、やっぱり頭を抱える問題が。
「…何で、無しにする必要あんだよ…」
俺のことは、好き…で、いいんだよな。
でも、なぜそれを取り消しにしなくてはならないのか。
意味わからん。
前から突拍子もないことを言い出すヤツではあったが、これは…範疇越えてるだろ。
「…怖じ気ついたな。桃李」
すでにベランダから撤収していた俺達は、リビングを陣取る。
理人はソファーに寝転がっており、その一言を発した。
「…怖じ気ついた?」
「うん。ヘタレにビビったな。これは桃李に説教だわ」
ヘタレに、ビビった…?
何で?
「…何でビビる必要があんだよ」
「いや、夏輝相手だからでしょ。普通に」
「普通に?!…何でビビられなきゃいけないんだよ!そこまで俺は恐怖心をあいつに与えてるってのか!」
それ、普通にショックなんですけど…。
「いや、恐怖心の問題じゃなくて」
「じゃあ何だよ」
「ちょっと前のおまえと同じ。今の関係崩れんのにビビってんの。王子様とパンを焼いて献上する下僕の関係」
「下僕…それ、やめて」
「言い方悪かった?したら、幼なじみの関係ってことにするか。…きっと、それ以下になるのが嫌なんだと思うんだけど」
「………」
ちょっと前の俺と、同じ…。
「恋愛感情はあるけど、それを伝えて前みたいに過ごせなくなるのは嫌なんでしょ。それなら今のままの方がいいって思ったんじゃない」
「じゃあ何で屋上で…」
「状況からいって、勢いで言っちゃったんでしょきっと。必死そうだったもんね。でもあれは本音だよ」
お互い、同じことを思っていたのか。
桃李も同じように、俺のことを思って…。
「…うわ。ちょっとキモい。何ニヤニヤしてんの」
背中に軽く蹴りを入れられた。
無意識にニヤケていたらしい。
だって、正直。
こんなに嬉しいことは…!
ニヤケがどうしても止まらず、両手で顔を覆う。
ダメだ。ニヤケる…!