…まさに、その勇気を出そうとした瞬間だった。
なのに…!
『…さ、さっきの告白は!…無しでお願いしますぅっっ!』
…どういうことなんだぁぁっ!!
「…桃李ぃぃぃっ!コラアァァ!!」
思いの外叫び散らして、鍵のかけられたドアをドンドンと叩きまくる。
「桃李ぃぃっ!…話!…聞け!このやろおぉぉっ!」
その時、お店から出てきたお客さんと目が合ってしまった。
変な目で見られてる。
しまった。ただいま営業時間中だ。
これじゃ、営業妨害で訴えられてもおかしくはない。
ひとまず、退散…。
そそくさと逃げる。
しかし、家には帰らず。
一時避難とした。緊急避難だ。
早歩きで、一分もかからない場所へ。
向かった場所は。
理人んち。
「…は?…何で俺んちに来たの?」
玄関のドアが開いた先には、ジャージ姿の理人がいる。
眉間にシワを寄せて、嫌そうな顔をしている。
「ち、ちょっと入れてくれ。ワケは話すから」
「はあぁっ?…っつーか、聞いてほしいし、聞きたいことあんでしょ」
「わかってるな。おまえ」
「わかってるよ。夏輝の考えてることぐらい」
わかってるな。ホント。
何だかんだモメても、俺が一番頼りにするのは結局この男なのだ。
理人もそれをわかっている。
中に入れてもらうと、ダイニングテーブルで、理人の母・万智さんが餃子を食べてビールを飲んでいる。
「…あれ?なっち。久しぶりー?どうしたの?」
「おじゃまします…」
「ちょっとだけど餃子食べてきなよー?」
「はぁ…」
餃子どころの話ではない。
しかし、万智さん、化粧してる。着ている服もよそ行きの雰囲気だ。
理人はテレビの前に突っ立っている。
「母さん、ナイター始まったよ。有馬先生に、川越さんちでハイターズのCS優勝の瞬間見ようって誘われてたんじゃないの?」
「…あ、そうだった!」
万智さんは何かを思い出したように、慌てて席を立つ。
洗面所へと駆け込んでいった。
「CS?」
「クライマックスシリーズ。プロ野球。今日勝てば、ハイターズは日本シリーズ出場決定なんだって」
「へぇー」
テレビでは、ナイター中継が始まっている。
今、ちょうどプレイボール。