それからというもの、彼、夏輝は私の日常生活の世界にしょっちゅう入り込んでくる。
教室でも、話す機会が増えた。
『桃李!ここのプリント、先生に持っていくように言われたんだろ?!…まだ、片付いてねえじゃねえか!』
『あ、あ、あ、ごめんなさい…』
『早くしろ!俺も手伝ってやるから!…本っ当におまえは鈍くせえ…』
『は、は、はい』
彼には、しょっちゅう小言を言われる。
たまには、怒鳴られる。
それは、恐らく、私がだらしなくて、彼がきちんとした人だから。
私の鈍くささにイライラするのだろう。
『片付いたか?量多いから、俺も一緒に持っていってやる』
『あ、ありがと…』
口が悪いけど、こう優しいところもある。
『おまえに任せとくと、廊下でプリントブチまけるかもしんねえしな』
『……』
私が悪いのはわかってるんだけど、ちょっと傷付く…。
でも、彼の言っていることは正しくて。
言うとおりにしていたら、ちゃんと解決する。
凄い、素晴らしい人。
…『夏輝』という名前は、上手いことを言ったもんだ。
夏の太陽のように、何よりも眩しく、輝いている。
彼は、そんな人。
学校の成績がとてもよく、テストではいつも100点を取っていて。
授業の発表も、きちんとハキハキ答えたり、流暢に自分の考えを述べる。
運動神経も抜群で、足も速いし、スポーツ万能。
私達の知らないことも知っていて、周りや先生まで驚かされることもしばしば。
博識で達観している。
英語も話せる。先日、道で外国人に道を尋ねられ、スラスラと英語で返していた。
祖母がフィリピン人ならしい。すると、夏輝はクォーターということになる。
加えて、その端正な顔立ち。
芸能人よりも、完成された美形の男子だ。
これぞ、完璧な人間というのだろうか。
性格も、口は悪いんだけど、面倒見もいいからか、みんなに好かれる。
自分の主張もはっきり述べるもんだから、そこをカッコいいとクラスの女子は騒ぐ。
分け隔てなく、みんなに優しい。誰もが避けてしまうような地味モブの私達にも、他の子とは変わらない態度で接してくれる。
リーダーシップを進んで取るキャラじゃないんだけど、困った時には、なぜかみんな夏輝を頼りにする。
だけど、それを嫌がらずにみんなの力になろうとしてくれる。
まるで、太陽の輝きを、みんなに分け与えるように。
そんな彼に、誰もが魅了される。