何で…?
「…星月」
「な、何で…」
「…少し、昔の話をしようか?」
「はなし…?」
蓑島くんの表情は変わり、柔らかく笑いかけてくれる。
その優しい笑顔で、彼は頷いた。
「…うん。俺の昔話」
蓑島くんの昔の話?
何でだろう…と、思ったけど。
その話は、蓑島くんが、現在のこの偽物カップルのオファーをした理由とリンクする。
そんな大切な話だった。
「…昔々あるところに。蓑島悠介という、野球少年がおりました」
「そこ…本当に、日本昔話みたいに喋っちゃうの?」
「雰囲気出るでしょー」
…昔々あるところに、蓑島悠介という、野球少年がおりました。
実のお姉さんや、仲良しのお兄さんたちと野球が出来て、それはもう楽しい毎日を送っていました。
野球の腕も上達し、いつしか蓑島少年は小学四年生の頃からレギュラーとして試合に出るようになりました。
最初は楽しかったのですが、しかし、試合に出て、重要な登板を任されたりするようになり、やがてプレッシャーを感じるように。
周りの目や陰口も気になって気になって仕方なく、多方向からのプレッシャーに、どんどんメンタルがやられていき。
もう、野球が嫌になってきたのです。