「さーて、そろそろ昼休憩にしない? 紗夜ちゃん一緒にランチ行こう」

「はい!」

「貴司はついて来ないでよ」

「行くかよ」


しっしっ、って水瀬さんをそんな風に扱えるのは、深町さんくらいかも。

てっきり一緒にランチに行くと思っていた水瀬さんは、椅子に座ったままiPadを操作している。

先に会議室を出てしまった深町さんを目で追いながら、どうしようかと悩んでいると、顔をあげた水瀬さんが「行っておいで」と言った。


「紗夜ちゃん、何食べたい?」

「たこ焼きが食べたいです」

「あはは、それじゃ夜までお腹もたいないわよ」


深町さんが連れて行ってくれたのは、最近オープンしたばかりだという洋食屋さんだった。

レトロな佇まいと落ち着いた空間で、どこか懐かしい感じがする。こういった雰囲気が大好きな私は無意識のうちに「わぁ通いたい」と言っていたらしく、カウンターの奥にいた男性が、にこっと笑ってくれた。


「ごめん、1本いいかな?」

「どうぞどうぞ」


うちはユリヤが愛煙家だし、実家にいる父もヘビースモーカーだったので、それほど嫌ではない。

電子タバコを取り出した深町さんに、必要ないかな? と思いながらも傍にあった灰皿を差し出した。