水瀬さんって、実は根っからの世話焼きで面倒見が良く、そして優しい性格をしている。

だけど、ぶっきらぼうだし、口は悪いし、ニコリともせず真顔だったり、時にしかめっ面だったりするから、怒っているのかなって思ったり怖かったりもする。

でもね、ちゃんと分かっているんです。

分かってきたんです。

分かってきたのに、

どんどん好きにさせて、どうするんですか?




「何この子、可愛いー」


えーと、どうしてこうなった?

今日は水瀬さんに付いて仕事をするはずが、さっきからずっと綺麗なお姉さんに絡まれている。会議の内容をまとめれば「偉いねぇ」。企画書を書けば「すごいわねぇ」。新商品を試し付けしてみれば「可愛い」って。

幼稚園児と間違えてませんか、私のこと。


「その辺りにしてけよ、あんまり褒めると調子に乗る」

「なによぅ、調子に乗ってるのは貴司の方でしょ。こんな可愛い子を従えていい気になるな」

「何だと?」


あーあ、喧嘩を始めちゃったし。

水瀬さんのことを”貴司”と呼ぶこの女性は、深町 彩(ふかまちあや)さんといい、彼の同期なんだそうだ。

艶やかな前下がりボブとパンツスーツが良く似合っていて、大人っぽい。

そんな彼女は本社の営業部に所属しているそうで、私たちと共に朝から始まった会議に参加していた。