そんな彼がこっち(本社)では、多くの人に囲まれて笑顔を交わし、仕事の話や家族の話、プライベートの出来事も交えて近況報告をしているんだから、その差に驚かないはずがない。
こういうのって何だろう? ヤキモチ? 嫉妬?
とは違う気がするけど、東京でも打ち解けてくれたらいいのに。
「やっぱり引きずってるのかな」
ポツリ、呟くように太田さんが言った。
「え?」
「あ、いや何でもないっす」
「気になりますよ、引きずってるって何ですか」
「いや、聞かなかったことにしてください!」
ええー。
そう言われると余計に気になってしまうじゃないですか。
お願いします、教えてください。と、自分史上最大に可愛く言ってみたつもりだけれど、さすが水瀬さんの後輩だけはある。太田さんはギュッと口を結んだまま、首を左右に振った。
気まずい沈黙が流れる。
手元にある資料はやってもやらなくてもいい仕事。時間と労力の無駄だな。
そう判断した私は「ちょっとお手洗いに行ってきます」と太田さんに告げて部屋を出た。