「お久しぶりです、お待ちしていましたよ!」

「わ、水瀬さんだ~。久しぶりです!」


本社に着くと、すれ違う大勢の社員に声を掛けられ、そのたびに水瀬さんは「久しぶり」と短めの挨拶を返していた。中には立ち止まり、2、3言葉を交わす人もいる。

ここに来てもやっぱり、東京での彼と違いを見せつけられ、私は何とも言えない気持ちになった。

大阪に長くいたから? 違う、これは彼の人柄そのもので。

おそらくこっちが本来の彼なんだろう。


「お疲れさまです。太田くんうるさくなかったですか? 久々に水瀬さんに会えるって昨日からずっとそわそわしてて……あ、ごめんなさい、そちらの方は」


企画部で出迎えてくれたのは、30代前半くらいの女性社員だった。

黒縁眼鏡と艶やかなリップが印象的な和風美人だ。


「東京支店、企画部の高木です。3日間よろしくお願いします」

「こちらこそ、松波です」

「本当は別のやつが来る予定だったが、急な用事でダメになったんだ。高木は勉強の一環として連れてきたから、悪いが面倒みてやってくれないか」

「そうなの。じゃぁ、高木さんは太田くんに付いて動いてください」

「はい、分かりました」