なんだ、良かった。

いや全然よくはないけど、これがあずちゃんの話だったら、今すぐ大河原さんのところへ怒鳴り込みに行くところだったよ。最低なんてもんじゃない。

しかし、あの爽やかさの裏で女を泣かせているなんて、人は見かけに寄らないって本当なんだね。

番号教えなくて良かったー。

あそこで登場してくれた水瀬さんに感謝するべきだな。


「で? 紗夜ちゃんは水瀬さんと進展あったの?」

「はい?」

「だから、進展よ。”私には水瀬さんがいるから”なんて言うくらいだもの、何かあったんでしょー」

「それは……あったような、なかったような?」



水瀬さんと偶然カフェで会った日、彼は私の気持ちを受け止めてくれていると言った。

休日のいつもと違う彼に会って、知らなかった一面を知って、笑顔が見れて、将来の夢を聞いてもらったりして、少しは距離が縮まったんじゃないかなと期待した。

だけど、週が明けて会社で会った彼は完璧なほどに上司で。

悲しくなってしまうくらい変わらないロボットのような上司で。

あの日のできごとは夢だったのかな? って思うくらい。