当たり前じゃない、肩をバシッと叩かれる。地味に痛い。
私が入社したその年に寿退社をした森本さんは、今年の春からパート社員として復帰しており、一児を抱えたシングルマザーだ。育児育児の毎日でこの手の話に飢えているらしい。
一方でいつもは恋愛話が大好きで誰と誰が付き合っているとかに詳しい情報通のあずちゃんは、険しい顔をしたままパスタを食べ終え、ナプキンで口を拭いた。
「それで、先輩はどうするつもりなんですか?」
「どうって?」
「大河原さん。客観的に見て素敵でしょ? 誘われたら応えます?」
「応えるわけないでしょ、私には水瀬さんがいるし」
って、別に付き合ってるわけじゃないけど。
好きな人がいるのに、他の捕まえておくほど器用じゃない。
「それを聞いて安心しました。あの男は最低です」
「あずちゃん……?」
「口が上手いのをいいことに人をその気にさせて弄んで、飽きたらポイ捨て。話が違うと迫ったら勘違いしているだの、そんなつもりはなかっただの、おまけにお腹の子は本当に俺の子かって」
「え!?」
思わず森本さんと顔を見合わせる。
お腹の子ってまさか、あずちゃん……。
「やだ、友達の話ですよ」