上着を脱いで、ベッドに座った。

「あーあ、疲れた・・・」

松井さんは無言で、狭いデスクにくっついている華奢な椅子に腰掛けた。


あの時より、部屋がだいぶ狭い。

本当に1人分ギリギリの広さだ。


改めて、松井さんを見た。

そうだった。

こういう人だったっけ。

存在感、ハンパないな。


「松井さん、しゃべれるようになったんですか?」

「え?」

「言葉が出なくなったって聞きましたよ」

「ああ・・・大丈夫」


シーーーーーーーン。


MCがほしい。


でも松井さんが声を出した。

「元気だった?」

「はい、おかげさまで。あの、その節はありがとうございました。あんな風に出てきちゃって、連絡もせずにすみません」

さっきまで出てこなかったお礼の言葉が、スルスル出てくる。

「松井さんは、ずっとあの会社で働いてるんですか?」

「辞めた」

「あっ、辞めたんですか!?じゃあ、別の会社で?」

「会社っていうか・・・」

「今度の会社も剣道部があるんですか?」

「今は警察官だから」

エ゙!?

私は大きくのけぞった。


「け、け、警察官・・・て、お巡りさん!?」

「そう」

「ひぇ~・・・」


想像つかないような、

ピッタリなような・・・


「なんでまた警察官?」

「周りで警察官になる奴多いから、俺は敢えてならなかったんだけど、目標もないし、それで」

「そんな感じで、よく受かりましたね」

「なんかしてないと・・・」


そこで、言葉が途切れた。

「頭がイカレそうだった」

涙も枯れ果てたような声に、胸が苦しくなった。


「夏海も頑張ったよな」


『夏海』呼び。

ちょっとビックリする。


「な、なんか頑張りましたっけ?」

「今の店で・・・」

「あっ、ああ、そうですね。みんなゴウの・・・」

言いかけて止めた。

嫌なこと思い出しちゃって、胸が重くなる。


「あの人しか好きになれない?」


階建を駆け上がっていった、ゴウの姿が浮かんだ。

その話はしないで欲しい。

でも避けて通れない。