夜になって、オッチャンと店を出た。

この人、何してる人なんだろう。

店でも出たり入ったり、ガーガー寝てたり。


「オネエャンの居るとこな、大体分かった」

「えっ!?」

簡単なプロフィールしか言ってないのに…

「わ、わかったって……?」

「今は『しずく』言うんやて」

「し、しずく?しずくって、何ですか?」

「源氏名、言うんかな」

「え、名前?……『妃乃』じゃなくて?」

「うん。しずく」



改名したのか?

それって本当にゴウなの?


あれっ、オッチャンがいない。

いや、いた。

ビルの脇道から出てきた。


急に居なくならないで欲しい。

また、小道に入った。

「ごめんな」

「はぁ」

オッチャンは、道に置いてあるゴミ箱の蓋を開け、すぐに閉めた。

何やってんの、この人。
ゴミ漁ってんの?

お金は持ってなさそうだけど、食べるのに困るほどには見えない。


「けったいやろ?」

自分から言ってきた。

「はあ…」
と返事はしたけど、オッチャンは聞いていない。

今度は、人が居るのか分からないような、ボロいビルの郵便受けを開けた。

何だろう。

なんか入ってたみたいだけど、素早く、そして何気なくポケットに突っ込んだから、よく見えない。



アヤシイ。


売られるんじゃん?

アタシ、売られちゃうんじゃん?

ど、どうしよう。


「ジブン、売られる思てんのとちゃう?」

突然、言い当てられた。

「イヤ、あの、う、売らないでください」

「アホやな。そんなんできとったら、こんなナサケナイ生活しとるかいな」

オッチャンは、街路樹の下にいる二人組みをアゴでしゃくった。

「アレ見てみ」


アレ?

「オナゴはんはエエなぁ。ああやって、いっくらでも仕事ある」

その二人は、親しくもなさそうなのに、男を先頭にして歩いてゆく。

「これからエエことしはんねや」


オトナー・・・・オトナな街・・・


確かに売られるにしては、どんどん繁華街に近づいてる気がするし………

ほら、人でいっぱいだ。

あ、あの服いいな。

古着屋か。
けっこう高いんだよな。

オッチャンは自分の庭のように、ズンズン進んで行く。

わ、なんだ、この小汚ない公園。
ちっちゃ!


「そこ座っとって」

「えっ」


座っとって、たって。

汚ない。

立ったまま 待っていると5分ちょっとで戻ってきた。


「食べたい言うとったやろ」

「タコ焼きだ!」

わー久々食べる~!

あ、でも

「あの、お金……?」

「さんびゃくまんえん」

「……………………………………………」

「ツッコまんかいっ」

分かるかい!