「ジブン、薫ちゃんの方が好きやろ?」

休憩中、エミリオネェさんに言われた。

「しゃーないですよ。カワイイんですもん」


涼しくなった夜空に、

エミリオネェさんの吐き出した息が立ち昇ってゆく。


「オトコの嫉妬はな、オンナと種類がちゃうで?」

「・・・サっつんが嫉妬するってこと?」

いくら薫ちゃんが可愛くても、

サっつんの方がずっと仕事ができるし、話もよくする。

サっつんだって、薫ちゃんには優しい。


「大丈夫そうですけどね」

「サっつんに気ぃ使いや?オトコはな、唐突に来るからな」

「はぁ・・・」


そうなのかな?

じゃあ、あんま薫ちゃんを褒めないほうがいいのかな?

それにしても・・・


ゴウも休憩に降りてきた。

「エミリオネェさん、休憩長ないですか?」

「今日は、グラが遅刻してきやったから、その分休憩貰ってん」

「へぇ。グラネェが遅刻て珍しい」

「ブーがやらかしてん」

「へ?」

「ブーがリスカしてやん」

「えええっ!?」


エミリオネェさんは、つまらなそうに缶コーヒーを口にした。

「どうもない。アイツ、クセになっとんねん」

「だ、大丈夫なんですか!?」

エミリオネェサンは、うなずいた。

「この業界、多いねんな。千鶴も死んでんて」


今度の今度こそ

「えええええええっっっ!!」

「声大きい」

「スミマセン!」


ゴウは「さっき聞いた」と言う。


あの、チーママが!?

あの「ヒトはコロしてもジブンはシなへんでー」みたいな人が!?

もうこの世にいない????


夜空を見上げた。

なんなんだ・・・それ・・・


ゴウは、しのぶネェさんのリスカ癖のことも知っていたらしい。

「しのぶネェさんは何で?やっぱ仕事しすぎ?」

「あのアホ坊んと別れたんやて」

「別れた?」

「アイツ、実家帰ってんて」

「ひどい。むっちゃ可哀そう・・・出入り禁止にする」

「そや。関わらんとこ」


それでもどこかホッとしているような口調を聞いて、

私は逆に暗い気持ちになった。

あの夜のことが蘇った。


これがゲン様の愛なのか、

それともジブン愛なのか、

どっちでもないのか、分らない。


私のせいなのかな?

でもあのアホが、

私の言う事なんか真に受けるのかな?


とにかく、

墓場まで持ってこう、

と思った。