小さい頃からピアノが好きだった薫ちゃんは、

親に、特に父親に

「一銭の得にもならないことをするな」

と言われながら育った。


友達の家で弾かせてもらったり、

学校で弾いたりしているうちに、

地元でも評判になり、

それでも父親はピアノから引き離そうとしたが、

最後にコンクールに出たいと言って出場したところ、

審査委員から絶賛された。


すると親はコロっと態度を変え、

今度は寝かせてもらえないほど、

食事も満足に取れないほど、

練習させられるようになったと言う。

学校もほとんど

行かせてもらえなかったらしい。


「ピアノも見るのが怖くなっちゃって、これは・・・このままだと死ぬかなって思って・・・それで、コンクールだって言ってお金だけもらって、乗れる飛行機に乗っちゃったんです」

声楽家くずれのヨーママが同情するわけだ。


それに、このうなじの傷なに?

アザみたいな?

怖すぎ。


私の視線に気づいたのか、

カオルちゃんは首に慌ててタオルを掛けた。


本当に大人しい子だ。

一緒に暮らして数日経った頃、私は気がついた。

薫ちゃんの下着を洗濯しながら

これは、もしや、アレだなと。



薫ちゃんは、一心不乱に働いている。

サっつんのような器用さはない。

だけど、ひたむきに私のマネをしている。


薫ちゃんが、おずおずとフルーツ盛りを掲げる。

「これじゃあ、売り物になりませんね・・・」

「大丈夫だよ。最初は誰だってそうだよ」


ジュウハチ歳を必死に生きる薫ちゃんは、

まるで昔の自分を見ているように思えた。