ゴウは余裕が出てきたのか、

美しさに親しみやすさが加わった。


しっかり雛ママ以上、稼げるようになっている。

他の店と比べても一番なんじゃないかな?

もちろんスカウトもウザいくらいにある。


「ちょっとやそっとでは、触れられへんな」

と、取材する側も認めるくらい優美な魅力がある。

今のレッドタスクの弱みがここで、

「しずくに憧れて、後輩が入っては来るけど育たない」

という。


「なんでですか?」

休憩中の階段下で、

グラコロねェさんに聞いてみた。


「サっつんと一緒や」

「サっつん?」

「アンタもゴウもな、目指しとるんは『あの人この人』ちゃうやろ。

自分を超えよう思てんねん。

せやけど、サっつんも新しい子ぉらもな、

小学生が粘土こねくり回してるんと一緒やねん。

粘土細工が売れるなんて、よっぽどの才能やで?

あの子らにそんなんあるか?

『好きなことしてたら仕事になる』てよう言うけど、

その前に産みの苦しみいうんがあるんよ。

粘土をな、金にも銀にも変えるための苦しさよ。

そこを省いて好きなことだけしようとしとんねん」


誰にも好かれるサっつんを、

こういう風に言った人は初めて見た。


「好きなことだけでお金になったらいいですけどね」

「みんな中途半端に、理解と金があんねんな・・・それがアカンのやろな」

煙を吹き出すと、グラコロネェさんは仕事に戻って行った。


好きなことだけねぇ・・・


サっつんは仕事はできる。

私も楽させてもらってる。

でも見てて、変なのって思う時がある。


フルーツ盛りが好きなのは分かるけど、

作ってくるものは、

確かに粘土でいいんじゃないかと思うものばっかり。


お金を貯めて、美大でも入った方がいいんじゃないかな?

でも美大とか音大とかって、金かかるんだっけ・・・。

ヨウママは声楽家を目指していたが、

お金がぜんぜん足らなくて、

この世界に入ったと言っていた。


金がかかるから、この店で済まそうとしてんのかな?


悶々としていると、

もう一人、

近くでタバコを吸っている人に気が付いた。


ゲン様だ。

目が合ったので、会釈した。

向こうはいつも通りのフニャケタ顔で、のんびりタバコを吸っている。


究極の「好きなことだけやって生きてる」ヤツ。

すげームカつく。

しばらく、ムカつきに耐えていたがとうとう言った。


「ゲン様は、しのぶネェサンのことを愛してるんですか?」


ゲン様は、意味の分からないという顔で私を見た。


「しのぶネェサンはゲン様のために自分を削ってるけど、ゲン様は何かしてるんですか?」

ゲン様は、外国語でしゃべりかけられたような顔をしている。

「愛してるなら、なにかしてあげてくださいよ」

最後は強い口調になった。

でも手ごたえがない。

私の言ってることなんか分からないだろう。


休憩時間が終わった。

私はゲン様を一人残して、店に戻った。