さすがに・・・人に言う気になれない。


「ホラ、あの子やで」

「え、若ないですか?」

フロアーから、こちらを覗く20代くらいのお客さん。


フルーツ盛りを作ったのは誰かと言っているんだろう。

軽く会釈をして、ついでにフロアーを見れば、今日もゲン様がいる。

あの薄ら笑顔を見ると、ムカムカしてくる。


ネェさんたちも無下にできないし、かと言って昔ほどの羽振りもないし、

「どもならんナァー」

というところか。


チッ!

ビールのケースを下に運びながらも

イライラが止まらない。


大阪!

暑すぎるんだよ!

更年期障害かッ

ちくしょう!まだ閉経してねぇぞ!


「あの~」


目の前に、

学生さんかな?というくらい若い、

お兄さんが近づいてきた。


「は・・・い?」

警戒しながら返事をすると、

タバコを吸いに降りてきた別のネェさんが言う。

「あらぁ?サっつんやんなぁ?」

「はい、そうです」

「どないしたん?忘れもの?」

お客さんだったらしい。

そういえば、何回か見たことあるかも?


サっつんと呼ばれたお兄さんは、

少し困ったように下を向いていたが、

やがて顔を上げて私を見た。


「僕を弟子にしてください!!」


時が止まった。

相手は深々と頭を下げている。


「・・・え?アタシに言ってます????」

「アンタに決まっとるやろ」

ネェさんが突っ込んだ。

「え!?ネェさんになりたいんじゃなくて?」

「僕にフルーツ盛り教えてください!!」


待って!

待って待って待って待って!!


「い、意味分らんっっ!!」

「すごい!お弟子さんやん」

「イラナイ!イラナイイラナイ!跡継ぎは考えてない!」

「今、ちょうど募集掛けてたとこやってーん!」

「ムリだって!何を言うテマスノ!?」


そこへヨーママが、

タバコ片手に降りてきた。


「ママぁ!新しい子ぉ入るで!」

「か、勝手に!ちょっと!ムリって!!」

「えー!サっつん、うちに来てくれるん!?」

「ヨロシクお願いしますー」


無理だって言ってんだろーが!!

「教えられないって!」

「普通に見せやったらエエやん」

「ふ、普通て・・・!」

「僕、何でもします」

「じゃあ、ネェさんになりなさいよ!!」

「サっつんは、接客向いてない」


なんなんだよ、人ごとだと思ってー!


「人足らへんねんもん。渡りに舟やんか」

「そろそろ店にオトコノコ欲しいぃ!」

「欲しいなぁ?」


本音ダダ漏れしてんじゃん!


「サっつん」を眺めた。

細っこいなぁ。大丈夫なの?

なるほどね、この子犬顔にヤられたのね。


「体は丈夫ですか?」

「ハイッ丈夫です」

「ジョーブやんなー?ガンジス川で泳ぐくらいやもんなー?」


ため息。


「弟子は止めてくださいね・・・」

ようやくそれだけ言った。