決算期の3月も黒字で終えて、ホッとしたのもつかの間。


グラコロねぇさんの生誕祭当日、

店がどうなっちゃうの!?

というくらいの人が押し寄せた。


さすが、グラコロねぇさん。

同業者ばっかじゃん。


季節外れのハロウィンパーティって感じ。

ヤバイね!


あーあ、良かった。

今までのフルーツ盛りじゃ、

ぜんぜん太刀打ちできんかったよ。


いつも通り、

「ほんま、コワイねんけど!」

とヘルプのネェさんに言われながら、

フルーツ盛りを作っていく。


初お披露目のフルーツ盛りが、フロアへ渡った。


「いっやぁああ!!凄いって聞いてたけどホンマ凄い!」

「うち、これ好きやわぁ!」


シャッターの切られる音も掻き消されるくらいの歓声。

嬉しい!!


皿の上には、

流れ落ちるように配置したフルーツに、

爆発を思わせる色の洪水を表現したつもりだ。


グラコロねぇさんを見た。

あれ?

顔色がおかしい。

真っ赤になって、ブルブル震えていた。


グラコロねぇさん立ち上がった。

興奮する面々を残して、スタッフルームに消えた。


バン!と扉が閉まって、みんなが呆気に取られた。



わ、わたし、マズイことしちゃった・・・?

いい気になってた・・・?


やっぱり、いつも通りカワイらしいのを作らなきゃいけなかった・・・

それなのに、自分の想いを出しすぎた・・・!


私は思わず厨房から出て、スタッフルームに駆け込んだ。

そこには号泣しているグラコロネェさんがいて、

すでに背中をさすっているエミリオネェさんの姿があった。


「ごっごっごめんなさい!!」

私は叫んだ。

すでに泣いちゃってた。

「本当に、本当に、ご、ごめんなさい!!」

エミリオねぇさんが手を横に振った。

「ちゃうちゃう」

そんな冷静な小さな声は、興奮した私には届かなかった。


もうダメだ。もうクビだ。

誰がなんと言おうと、私は自分が許せない!


もうアタシはクビ!!


グラコロねぇさんは、首を振ったように見えた。

でも首は、あんまりないので分らない。

「ちゃうねんて」

と、またエミリオねぇさんが言った。

ゴウが私の肩を抱いているのも構わず、もう一度叫んだ。

「うわあああああん!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


とうとうグラコロねぇさんが声を張った。

「ちゃう!ちゃうねん!!」

店が静かになった。

みんな狭いドアから、中の様子をうかがっているに違いない。


「う、うちは、実家がぁ呉服屋やってん!もう、もう無いけど、島で代々呉服屋やっとってん!」


みんな静かになった。

私がしゃくりあげてる声だけ響いた。


「お、親は、もうおらへん。店もない。こんな跡取り息子しかおらんで・・・こんなんやってることも話されへんまま、もうなんも、ッんんんもないねん!」


手渡されてタオルで、涙を拭った。

えげつない色の化粧がタオルに付いている。

「あ、あれ、あれ見たらな、店のことがブワアアア!!って蘇ってな。それで、オトンとぉ!オカンがぁ!『それでエエよ』っッッッッッッて、言うううう、言ううううてるような気ぃがしてん!」


・・・てことは?

これは、良かったのか?

え?

この空気、どーすんの?

号泣ですけど?

化粧、大ナシですけど?


わ、わからへん・・・