ユキエさんがポンと手を叩いた。

「そうやったわ!成人式やらへんかったやろぉ?うちのコ、生誕祭で着るんやって。海ちゃんも選んで?」


成人式?

確かに1月は雛ネェさんのことで、

それどころじゃなかったからなー。


なにか分からないまま、ユキエさんが別の部屋へ移動するのについて行く。

部屋が開けられた途端に、息が止まりそうになった。


大げさじゃなく、―バーン!!と音がした。

色彩にアタマを殴られた・・・みたいに。


着物部屋だ。

すごい。
すごすぎる。

初めて見た。

色が爆発してる。

柄が飛び交っている。


「うちの子ぉは、コレが好きなんやて。海ちゃんも選びなさい」

「え・・・?」


天井から吊り下げられた竿に、振り袖が何枚も掛かっている。

その事を言っているらしい。

ここは、貸衣装屋なのか?


「いあぁ・・・ちょっと凄すぎてアタシ・・・」


そんな、ゴウ一人で何枚も着るの?

でも店で着るとしたら、1枚じゃ足らないか?


「買うてはあげられしまへんけど、どれでも着たいものを選んだらよろし」

「え!ええええ!?アタシの!?アタシが着るの!?」

「当たり前ですわ。海ちゃんかて成人してはりますやん」


こ、こ、こんな、こんな芸術品のカタマリみたいなもん着れないよ!!


「あ、アタシは、どうなの?こ、これに相応しいとは、とても言えないのではないかと思われ・・・」

「あきまへん。成人したら、ムスメは振り袖を着はるんどす!それが孝行いうもんどす!」


こう、孝行!!

もう親あの世なのに、

まだ孝行すんの!?


気迫に押され、もう一度振り袖に目をやった。


ゴウが選んだという着物は、

何がなんだか分らない鳥が羽根を広げていて、

その羽根の一枚一枚、色が違う。


「これは、何ていうの?」

「鳳凰やろなぁ」

「これ、どうやって色つけてるの?」

「一つ一つ、手で色を染めてはんねん」

「え!?塗り絵みたいに!?」


ユキエさんは吹き出した。

「塗り絵やなぁ」


何で、こんなに色を使ってるのに、全体で見るとまとまってるの?

謎過ぎる。


「振り袖って、赤しかないのかと思ってたから・・・」

「赤にも色々おますんやで。すおう、からくれない、とき、えんじ・・・」

「すごい。呪文みたい」

「これは『あかね』やなぁ」

ユキエさんが、1枚の振り袖に手をやった。

細長い豪華な布切れが、

風に揺られて絡み合っているような柄だった。



この色、懐かしい。

すごく惹きつけられる。


遠い記憶が蘇る。

お母さんの婚約指輪を握りしめて、

一人でオトナになろうとした、あの日のこと。


愛情というものを感じて、

もう一度、生きようと思った日のこと。


「これがいい」

「これにしはる?」

「うん」


その後は、ユキエさんに帯を選んでもらった。

帯もすごかった。

みんな同じようなもんだと思ってたけど、とんんんでもない!

小物で印象が全然変わるのも驚いた。

こんな細い紐や布で、ぜんぜん雰囲気が変わっちゃうんだ!?



小物も貸すと言われたけど、

草履とバッグはさすがに申し訳ないので、

自分で買うことにした。


色彩って、こういう時に使うんだなぁ。

ぜんぶ、吸い込んじゃいたい。

感動しかなかった。