ゴウのお母さんは、ゴウが店長になってから店に遊びに来るようになった。

今や「しずくママのオカン」ではなく、

「ユキエさん」と呼ばれている。

着物姿が素敵な人なので、

ネェさんたちにも好印象だ。

大阪vs京都の話でいつも盛り上がっている。


京都人のメンドーくささは、

いつもゴウから聞いている。

でもユキエさん自身、

「他所さんには分からしまへん」

と諦めているらしい。


電車に乗ってから、

「あ、電話しとけば良かった」

と気がついて、駅を降りてから電話をかけた。


「遊びに来てくれたん!?今、出かけとるけどすぐネキ(?)どすねん」

というので、ぶらついていることにした。


飲食店ばっかだなー。

あ、あの人は女のかっこしてないけど、オネェだ。


古い喫茶店だなー。

あのオジサン、うちの店にハマりそう。


いつか、ゴウと二人でお店ができたらいいのに。


「海ちゃん!」

振り返ると、ユキエさんがいた。

「海ちゃんは、ホンマ観察するのが好きやなァ」

「そう?」

「今どきの子ぉいうたら、手に機械持ったまま離さへんやろ?」

「そうかなー」


ユキエさん、今日も着物を着ている。

「急にごめんね。用事があったんでしょ?」

「かましまへん。今日は病院の日やったやろ。寄らはるんとちゃうかなぁ思うてましたんや」

マンションに移動して、お茶を出してもらう。


ひゃあ。綺麗な茶菓子。

目に焼き付けとこ。

どうやって、このグラデーションを出すんだ?


「病院で何て?」

と言われて、我に返った。

「あ、ああ。ちょっとだけ腫瘍があるって」

「イヤァ!ホンマに?それはどうしはるの?」

「手術するのか微妙だから、今度は家族と来てくださいって言われたんだけど・・・あのーユキエさん、一緒に行ってくれないかなぁ?」

「もちろん、エエよ!うちでエエんかな?」

「ユキエさんがいいの。だって、うちらはまだまだ子供だもん」

「我が子はいくつになってもヤヤコやけど、海ちゃんはシッカリしてはるように見えるけどなぁ」

「ぜんぜん。私は子供だったよ。大人のつもりでいたけど」


それに気がついた今は、過去の自分が恥ずかしい。