その『オッチャン』が訪ねて来たのは、それから2週間後のことだった。

店で仕込みをしていると、グラコロネェさんに呼ばれた。


「夏海〜。ほら、アンタ訪ねて来はったで?」

「へ?」


誰なの?

業者さんみたいなカッコしてるけど・・・?


「覚えてる?」

と、オッチャンは言った。

「あ、アタシ、この人知ってる!」

思わず言った。


「し、知ってる!知ってるんだけど・・・アレ?ダレ?」

「佐々木だよ」

「知ってる!!その名前知ってる!!」


興奮するなら、思い出せよ!

知ってる!

分かってる!

でも思い出せない!


「さ、佐々木は小次郎しかしらんけど!佐々木さんって人がいたのは知ってる!」

グラコロネェさんが、呆れたように言った。

「佐々木小次郎は、アンタのこと知らんやろ」

「アタシのこと知ってますか!?」

「知ってる」


そりゃそーだ!

「それで、どなたですか!?」

「火事の時に世話になった・・・」

「・・・カジノ?」

「火事、言うてはんのや!アンタ、火事で死にそうになったんやろ?」

「それは、ごめんなさい。さっぱり覚えてないんです」


佐々木さんというオジサンは、困ったように眉を下げた。

「火事の前から知り合いだったけど」

「ほう。お世話になってましたか?」

「ううーーん」


そこへ、ゴウがやって来た。

「あれ?この人、佐々木さんやん!」

「しずくの知り合い?」

「何を言うてんの〜!アンタがこの人のこと助けたんやんかー」


え???????


「アタシ、ちょっとどうしたらいいの?」

「もう仕込みええから、外で話してき」


グラコロネェさんに言われたんじゃしょうがない。

私は手を洗って外へ出た。