移動した当日は東京に一泊して、

次の日に懐かしい地元へ帰って来た。


久しぶりに降り立った駅で、

私は驚きすぎて動けなくなった。


ビル!ない!

私のバイトしていた雑居ビルが、

跡形もなくなっていた。


ええええええええええええ


でも、そうだった。

誰かから、ビル壊すよって聞かなかった?

いやー。

あのボロビルがないと、すっごいマヌケに見える。


そっかぁ・・・なんか私の青春ごと消えたって感じ。


しょうがない。

人生、こんなもん。

バス、乗ろ。



そこからバスに20分ほど乗って、お寺へ向かった。

寺務所へ声を掛けると、住職さんらしきオジサンが出てきた。

挨拶を済ませると、住職さんが言った。

「父のほうがいいとか?」

「え?父?」

「前住職が、あなたのお母様のお葬式に伺ったそうで」

「え、まだ生き・・・お元気で?」

「ええ、あなたも父に葬儀を頼まれたでしょう?」

「チチにソウギを?????」


わかんない。

わかんない、わかんない、わかんない。

な、なんのこと?


私が混乱していると、今度はオバチャンが出てきた。

「あらあ。元気でした?」

「は、はい。元気です」

「松井さんには会ってる?」


松井さん?

松井さんが何で登場するの?


「松井さんは欠かさずご供養に来るよ」

「ま、松井さんて・・・?あの、ええ?松井さんですか?」

「そうよ。彼、声が出なくなっちゃったでしょー」


声が・・・出ない・・・?


「あなたの事聞こうにも、話が出来なくて」


へ?どういうこと?


オバチャンは住職へ

「お父さんを呼んできてちょうだいよ」

と言うと、私に向き直り

「大丈夫かな?ここでも良いよ?」

と言ってくれた。


「あ・・・」


私が入るのを怖がってるって分かったのかな?

暗いところは本当に苦手。


正直に答えた。

「あの、ちょっと怖いなって思ってて」

「そうでしょ。じゃあ、ここに居てちょうだい」


お堂の縁側に座布団を敷いてくれた。

しばらく待っていると、静々と年寄りのお坊さんが入ってきた。

お坊さんに一礼されて、私も慌てて頭を下げた。


お経が始まった。

お爺ちゃんだけでなく、オジチャン住職も一緒に唱え始めた。


料金、2人分かかるのかなぁ。

そう思いながら、聴いていた。