妖Z(ヨウゼット)ママは、

五十代後半かと思われるベテランオネェさんだ。


この業界は、完全に女子の人もいれば、そうでない人もいる。

妖Zママは(以後、ヨーママと呼ぶ)、そうでない方だ。

女性の格好はしているけど、

美人でもなし、

華もない。


太い骨格は男性丸出しで、

適合手術もホルモン注射もしてないのが丸わかりだ。

一応、全身医療脱毛したそうで、

「産まれたままの新品やねーん」

とは言ってるんだけど。


ところが、一緒に働いているゴウに言わすと

「あの人が来はると、働きやすくなる」

そうだ。


一度、お客さん同士で、

つかみ合いのケンカが始まりそうになったことがあった。

すると、ヨーママが突然立ち上がって

「歌うぅ!わたし歌うからぁ!」

と言い出した。


みんな、

「ハァ????????」

たぶんケンカの内容とはなんの関係もない。

なのに、合唱部みたいに歌い出した。

夜の店にはとてもふさわしくない、

青空のように明るい歌だ。

嫌な空気が、だんだんとマヌケな空気になり、

最後に、

「今日もこの街♪近商ストアァァァァ」

と歌い上げると、

「近商ストアかいっ!」

店中が爆笑した。

ケンカしていたお客さん達も

「近商ストアはアカン。ヒキョウや・・・」

「オレ、あっこでバイトしとった・・・」

と疲れたように言った。


オーナーは「お客様のために命賭けてる」という感じ。

ヨーママは「人類みんなで幸せになろな!」という感じだ。



私にも初対面から話しかけてくれて、

「千葉なーん?鎌ヶ谷の梨、美味しーなぁ?日ハムのキャンプに行った時ハマってーん。毎年予約して取寄せてんねんかー」

とか言う。


ヨーママと同じシフトに入れると

「ヤッタ!今日はアタリや!」

とオネェさんたちは言う。

そういう人だ。