「ホンマに好きやったんやなぁ」

ゴウが呆れたように、声を上げた。

眼の前には、正体不明の現代アートが、そびえ立っている。


「こんなん砂に棒挿しとるだけやん」

「いや、なんか・・・イイところがある」

「どこがやねん」


ゴウの父方の叔母さんは芸術家だ。

今日は、作品が展示されているイベントに来た。


「これは、下が砂じゃん?」

「砂やな」

「そこに棒が立ってるじゃん?」

「立っとるな」

「つまり・・・タワマンだよ」

「ギャッハッハッハッハ!」


そんな、腹抱えて笑うこと?

さっきゴウのお母さんも「どう感じるかは自由」って言ってたもん。



「やっぱタワマンには住まないほうがいいよ」

「そ、そんな・・・ギャハハハハハ!」

「下、砂だもん。危ないよ」

「ッ゙xrっうjもうッもうッ止め!」


あんまり笑うので、次の作品に移動した。

フツーの置き時計だけど、針がひん曲がっている。


「これは・・・時間を忘れた現代人への警告だね」

「ヒーーーーーーッ!メイク!メイク剥がれる!」



これがフルーツ盛りと、どう関係してくるのか分らないけど、まぁいいじゃん。

何でも見といたほうがいいと思う。


涙を拭いながらゴウが言う。

「こんなオモロイ現代アート初めてや」

「面白いよ」

「オモシロイの意味ちゃうねん」


別々に見ていたゴウのお母さんが近づいてくる。

「何をそんなん笑ろうてはるの?あっこまで聞こえたわ」


ゴウが私の言ったことをマネする。

お母さんは、感心したようにうなずいた。

「海ちゃん、それホンマよ。あのオバチャンな、高いとこ嫌いやし、時間が奪われる言うてなぁ、ケータイも持てはらへんのよ」

「ほらねー」

「ほらねーちゃうわ。あーあ」


ゴウが笑ってくれるのは、嬉しいなぁ。

毎日、おそくまで店長業務をこなして、休みの日も勉強してる。

たまには、何もかも忘れて笑ってほしい。


「せやったら、アレはナニ?」

ゴウが、会場中央の天井から吊り下げられた、無数の布切れを指さした。

「トイレじゃん」

「は?」

「下に便器があるじゃん」

「タダの椅子やろ!」

「上から水が流れ・・・」

「ずぶ濡れになるわ!」

いつまでも笑うゴウを見ているこの時間が、

何よりも幸せ。