オーナーは、そのまま店にいた。
と言ってもテーブルにはつかない。

私のいるキッチンから、ゴウの指導をするだけ。

「あんた、自分だけ見ててどないすんねん。気づかん人間がおったら、グラスを回すんや」

「はい!」

いきなり、店長・・・

大変って言葉じゃ足りない。


店全体を見なきゃいけないし、

売上の計算するし、

シフトも作るし、

やる気のない子がいたら注意しなきゃいけないし・・・

「しのぶに注意せい。二回もグラス空で気づかへんかったやんか」

「ハイ!」

それが、大先輩でもだ。

席に戻ったゴウが、しのぶネェさんにさり気なく注意する。

しのぶネェさんは、分かってるか分かっていないか、どーなのかなアノ顔。

アタマが沸いちゃってるからなぁ。

今はゴウが注意することは、オーナーの指示だと分かってるからいい。

でもオーナーがいなくなったら?

っつら!

私もツライ。

だって、すぐそこにオーナーがいる状態で、フードを作らないといけない。

「夏海」

の声にハッとした。

「ハイ!」

「もっと反対色をウマく使い」

「反対色・・・」

オーナーが、私のフルーツ盛りを少しだけ並べ替えた。

本当にチョチョっと。

それだけなのに、突然3Dになった。

「お、おしゃれ」

思わず、つぶやいた。

オーナーは優しく答えた。

「世の中イヤな事ばっかりや。お客様には、少しでもキレイなもん見せたげよな?」

「はい」

これは本心だ。

キレイ事なんかじゃない。

これが、オーナーの生き方なんだ。


帰りに結婚情報誌を手に取った。

開いたとたん、

わあ眩しい!!

私の趣味じゃない。


でもここから始めよう。

キレイなもんを見ることから、始めよう。


そう強く決心した。