オーナーは、それからピッタリ一ヶ月間、店に通った。


「しんじられへんわ」

しのぶ姉さんが言った。

「10倍やで?」



私もありえないと思う。

ありえないと思うけど、マジなんだ。


店の売り上げが10倍になった。


「無茶苦茶やな…」

「凄すぎるわ」

「現役、引退したんやろ?」

「した。正式にはしてへんらしいけど」


なんでやろ………


と姉さんたちは、話し合い始めた。


私はキッチンにいるけど、

とにかく滅多にでなかった高級酒が、

バンバン出るようになっちゃって、

だからフードもそれに合わせて高くなるじゃん?


そしたら、もう、ね?

売り上げバーン!!


だよ。


オーナーがいると、店が高級店になるんだよね。

何でだろう?


分かんない。

お客様をもてなすっていうより、

お客様がオーナーをもてなす、

みたいな感じ。



でもオーナーは、

やっぱり偉ぶってないんだよ?


でもでも、

「わ、オーナーいてはるやん。こんなん安い酒飲めへんやん(大喜び)」

て雰囲気がある。


千鶴ママは、もう何にも発してない。

毒気もオーラもなんにも。

静かに出勤して、静かに帰ってく。


もう、話題にものぼらない。


そして、ゴウはというと・・・