麓へ向かう道を下りながら、この半年のことを思い出していた。


最初は良かったんだ。

老人ホームみたいなところを抜け出して、夜行列車に飛び乗った…

「温泉」て書いてある駅を目指して。


前に、バイト先の主婦青木さんから、リゾートバイトの話を聞いたことがあった。

「住み込みで三食ついてるし、お金使う所もないから超貯まるし、休みの日はスキーしまくって、もう最高だったよー」

なに、その、スバラシイ仕事!



この時から私の将来の夢に「週休二日制」に続いて、「リゾートバイト」がランクインしたのだった。


だけど、実際に温泉街についたら「身元引受人」がいないとダメだって、どこでも断られちゃって。

そんなのいるわけないじゃん?

ようやく、紹介してもらったのがクリーニング屋さん。

旅館のタオルやシーツなんかを引き取って、洗濯して、また返すっていう。

60代くらいの背が高いわりにガリガリに痩せた店主は、

「車の免許サねがったらハァ困っちまうな」

と不愛想に言ったけど、急に奥さんが入院して人手不足とかで、なんとか住み込みで雇ってもらえることになった。