はっや!

しのぶネェさん、もうゲン様の向かい側に座ってる。

目がハートだ。



「ブーは、ホンマすっきゃな」

呆れたように、グラコロネェさんが言う。


私は首をかしげた。

「ゲン様のどこが好きなんでしょうね」

「うちかて、すきゃで」

「目がハートになるほど?」

「フェチやろ」

「なにフェチ?」

「ゆるキャラ」


確かに。

ゲン様って、いつもビックリしたような顔してる。

冬眠から急に目覚めたリスみたい。

オッサンなんだけどね。


お金が目当て……なんて思っちゃ悪いか。

遺産は弟が握ってるみたいだし、関係ないか。

遺産相続ってマジ面倒くさ……



急に、まわりの景色が遠のいた。


-姉ちゃんは母さんの面倒なんか何にも看てないじゃないかよ!-

-やめて!-


お母さんだ。

お父さんを止めようとしてる。


-そんなの父さんの生き甲斐のためでしょーよ!-


言い返しているのは、叔母さんだ。


-みたくなかったわけじゃない!アンタ、私の親よ!?-




「海!」

の声で我にかえった。

見上げると、ゴウが私の腕を掴んで揺すっていた。


こ、声がでなひ……


グラコロネェさんも心配そうに見てる。


「水のみ!」


ぜんぜん飲みたくないけど、

ただ機械的に飲んだ。


「アンタ、医者行かんでエエんかいな?」

グラコロネェさんが言った。


なんか、

なんか言わないと。


「あ、あたし、いまね」

「はん?」

「目ぇ開けて寝てたよ」

「コワイわっ!」


ゴウは何も言わない。

ただ胃の痛い人みたいな顔をしている。


あれ?

ゴウも顔色悪くない?



話題を変えよう。


「見てみて。ゲン様が来てるよ」


ゴウはよけいに顔を歪めた。



「うっそやぁ。うち、あの人のせいで今まで怒られててんで?」

「原発にか。なんでや」

「ゲン様いつも現金払いやないですか?せやし『カードにしたら、ようけポイントつくんとちゃう?』って言うたんが気にいらんて」

「そんなん大したことちゃうやん。なんで怒られるん?」

「『客の金のことにギャーギャー口出すなや!』て。ギャーギャーて?ギャーギャーなんてイッコも言うてへんでしょー?」