薄暗い店内をキッチンの小窓から、のぞく。


まだ、間に合いそう。

急いでフルーツ盛りを作り始めた。


これが一番やっかい!


果物なんて、日によって大きさとか柔らかさが違うし、

裏返したら傷があったりして…



ほら、あった!

あの八百屋!



「違う店に仕入れ変えられないの?」

と、ゴウに聞いてみたことがある。


「何度も千鶴に言うたみたいやで。せやけど『フルーツやもん、しゃーない』で終わりやって」

「安いのかなぁ」

「安いわけないやん。あの配達の兄さんを気に入っとんねん」

「えー、あの人ぉ?」


カッコ悪くはないけど、

くらーい感じなのに。


挨拶もしないで、のそっと入ってきてさ、

伝票をとんでもない場所……

例えば濡れてる所とか、

まな板の上とかに置いちゃうんだよ。


グラコロネェさんも

「アイツ見てると、サブイボ立つねん」

って言ってたのに。


変なの。


そういえば、千鶴ママと道でしゃべってるの見たことあるな。

あの人もしゃべるんだって、ちょっと驚いた。



「このアマ!!!!」


心臓が止まりそうになった。

千鶴ママが、入り口で髪を逆立てて立っていた。


な、なに……?



「おどれぇ!いつまで待たんだら出てくるんやあ!!」


私の足元に、グラスが飛んできた。


割れた音よりも、当たった先がスチールバケツで、

ものすごい音になった。


一瞬、客席が静かになったような気がした。


「ドアタマカチワッタロカ!!」


誰かが音楽の音量を上げたらしい。

またざわめきが戻ってくる。


「すみません!」

「すみませんちゃうわ!このアホんだらあ!」


超怒鳴ってるんだけど、

何を怒ってるんだか分からない。

罵り言葉が混じっちゃってるし、

千鶴ママの大阪弁が早口過ぎて。


「たぁさん、帰ってもーたやないかあ!!」


聞き取れた!

常連の『たぁさん』が……???

なに、なに、なに!?


伝票を思い出した。


あの人もフルーツ盛り………


あ、しまった!!!



「すみません!」

「すみませんで済むかボケェあ!!死んで詫びろこのブス!」


たあさんは、お酒を飲まない。


その代わり甘党で、

フルーツ盛りを注文されたら、

ホットケーキも作って、

それも持っていかないといけないんだった!


それをゆっくりゆっくり食べている間に、

オネェさんたちが酒を飲みまくって稼ぐという、

特別な布陣になってるんだった。


どんなに謝っても

千鶴ママの怒りは収まらない。

もうただ、時間が過ぎ去るのを待つしかなかった。