ゴウは渋い顔をした。

「まだエエてぇ。記憶もちゃんと戻ってへんのに」

「海ちゃん、どこまで覚えてるの?」

「トンちゃんに鰻をおごってもらったとこ」

「また、それ言うとる」

「あっはっは。だいぶ前じゃーん」


でも本当にこの辺りから、

何を覚えてて、

何を覚えてないのか、

おぼえてない。



「ゆっくり休んだら?」

「でもさ、ゆっくり休んで思い出すもんでもないよね」

「海は働き方がオカシイねん。『忙しい』を越えてんねん」


トンちゃんが腕を組んだ。

「ヒノちゃんとこで、働けないの?」

「今は『しずく』ちゃんなんだって」

「へえ。しずくちゃん?」


ゴウは不服そうに顔を歪めた。


「変えられてん。ひなネェサンいう人がいはってな、紛らわしいて。ひなネェサンが言うんやったら分かるよ?チーママが勝手に変えてん」

「狭い世界だからね」

「ウチとこ来てもええけど、お薦めはできひんな。このチーママがアタマ変やねん」

「私が女装を…?」

「そんなわけあるかいっ。裏や、裏っ。キッチン!」

「ああ、そっか。ビックリした」

「サクッと流してもーたけど『女装』てなんや。アンタ女やろ」


矢継ぎ早にツッコミを繰り出すゴウに構わず、トンちゃんは冷静に言った。


「でもキッチンならさ、そんなに絡まないでしょ」

「うーーーん、そうやけど。まだ働いてほしないなぁ」

「海ちゃん次第でしょ」