知ってた?


ボケてないと、ツッコめないんだって。

私、ボケてないって。

でもボケてんだって。

(なんのこっちゃ)


タクシーで到着したのは、けっこう立派なマンションだった。

ゴウの親戚の持ち部屋なんだけど、海外赴任中なので安く借りてるらしい。


風呂から上がると、質問ラッシュが待っていた。


「あんた、どっからどこまで覚えてんねん」

「どっからって言われても……気になってるのは、親父の骨をどっかやっちゃったって事とか…」

「何を言うてんねん!あんた、自分で埋葬してんで!?」

「ええええええええ!!だって、うち墓ないよ!?」

「せやから海上散骨したんやないか!」

「あああ??そう??よくそんなお金が……」

「会社から出たんや!あのブラック企業から」

「ブラック?」

「ネカフェでバイトしとったやろ?それも覚えてへんのかいな?」

「してたよ」

「ほな、それは覚えてんねんな?」

「うん。なんで給料払ってくれたの?」


ゴウが、顔を歪めた。



「ねぇ、その蒸しタオル冷め……?」

「冷めるわ、そら!」


速いよお………



「ほな、あの男の事は覚えとるん?」

「男?」

「松井や」

「まつい……」

「店長」

「ああ、店長ね。覚えてるよ。なんかネカフェ、クビにされたんだよ。ぜんぜんワケわかん………?」


ゴウがなじるように言った。

「知っとる。アンタ、クビにされた時なんんんで、すぐ言わへんかッてーん」

「だってワケ分かんなかったし、もう就職して……ああ!就職!内定してたのに、アレどうなったの!?」

「それは知らん。そこ泣くとこちゃう!泣くのはまだ!」


週休二日制がぁ~~~

住居手当てがぁ~~~

厚生年金がぁ~~~~


ああああああ~~~~~!!!



「いつからや?」


今までとは違うゴウの口調に、顔を上げた。


「い、いつから?」

「いつから松井さんの気持ちに気づいてたん?」


そ、そこ?


「え………あの、山梨出るとき」


ゴウは大袈裟すぎるほど、のけ反った。

「それはナイッ!」

「なんで。ホントだよ!」

「ウソや!あんた、うちに気ぃつこうてたんとちゃう!?」

「違うって!知るわけないでしょ!告白されたわけでもないのに!」

「なんかあったやろ!この人、うちのこと好いとんのとちゃうかな~みたいなんが!」

「店長が~あ?」


ちょっと考えてみよう。

店長が、私を、好き………


全身がゾクッと震えた。

思い出すと言うより、現れるという感じだった。


店長のあの眼差しが、雷のように私を貫いた。

思い出した。


思い出したくない感情まで。



「……海、ごめん!」

慌てたように、ゴウが私の肩を抱いた。


涙が流れ落ちていた。


「辛かったんやもんな。ごめんな」


首を横に振った。

涙が止まらない。


「ごめんな」


言えない。

そうじゃないよ、違うよって。

辛いけど、そういう意味じゃない。



私は、ゴウが好きだった。



そして、今も変わらない。



高校時代から、なにも

なにも変わっていなかった。