パワフル過ぎるご両親の家を後にし、

車で海を見に行った。


周りは工場と倉庫ばかり。

遠くから金属音が聞こえてくるけど、誰もいない。


懐かしい。

風の塔が遠くに白く光っている。


覚えてはないけど、自分であそこまで行って、

お父さんの散骨をしたらしい。

お母さんの時の散骨も記憶があいまいだけど、

懐かしいという気持ちは、ちゃんとあった。


「良いところですね」

トーマくんは、じっと海を見ている。

「前も来たよ」

「え?」

「夏海が、居なくなる前日」

「えっ・・・」


ここだったんだ?

だから懐かしいのかな?


「全部探したけど、ここだけは来れなかった」

トウマくんが、大きく息をついた。


「ごめんなさい」

と、しか、言葉が出ない。


トウマくんが聞いた。

「あの時、何を考えてた?」

「あの時?」

「海を見ながら、なんか考えてた気がした」

「いえ、覚えてないです」


トーマくんが海を見つめている。

私がいない間、

こうやって独りでいたんだと思うと、

胸が締め付けられる。


思わず、腕を掴んだ。

トウマくんはその手を握って、

私ごと自分へと引き寄せた。


「敬語、もうナシ」

「それもそうですね」

あ、また敬語使っちゃった。


「私でいいのかなぁ?」

今更なことを聞いてしまった。

トーマくんが意外なことを言った。

「山梨の・・・あの施設さ、本当は逃げ出せないだろうと思って、あそこにしたんだ。駅まで50分も歩かないだろって」

「ええ!?」

「お前が居なくなるまで、それを無意識でやってるのに気がつかなかった。大阪の情報誌見た時、『今度こそ絶対に逃さない』って考えに取り憑かれて、外から鍵かけるところまで考えがぶっ飛んで・・・俺は、警察やってなきゃ危なかったね」

「サイコだ」

「実行はしてない、一応」


一応ね。

「だけど、夏海を見てると『これは俺がそういう思考になるのはしょうがない』って、ホッとする」

「なにがショウガナイのか分らないんだけど!」

「ぜんぜん大丈夫だなって」

「なにが大丈夫なの?」


呆れて言ってんのに、

なんで自信アリ気に笑ってんの?


海は記憶通りに光ってる。

綺麗な水じゃないのに、のんびりと光り輝いている。


恥ずかしいけど手を握り返し、

思い切ってトウマくんの顔を見上げた。


「オナカいっぱいだから、夜ご飯は8時以降ダネッ」

「・・・他に言う事ないのかよ?」


笑った。

トウマくんも笑った。

自然とキスしていた。


人生はイヤなことばっかりや。


でも、

綺麗なところを見ていこう。