早く帰ってこいと言われているようで俺は苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「真司君?」
「とりあえず、ごめん車に乗ってくれる?」


俺は、転校生を誘導して車に乗せた。


「初めましてお邪魔します」
「はいはい」


少し緊張した面持ちで転校生は後部座席に座った。
俺も乗って、車は静かに発進した。


「ごめんなさいねーこんなおばさんが一緒で」
「え?い、いえ、そんなことないです」
「あ、私そこの馬鹿の母親です」
「わ、私は塩田 莉桜菜といいます」
「莉桜菜ちゃん?かわいい名前ね」
「ありがとうございます」


母さんは、上機嫌に転校生に話し掛けている。
転校生は、身を縮ませながら言葉を選んで返しているようだ。
それはそうだよな。
人の母親とまさか一緒にいることになるなんて緊張する以外ないよな。
俺は、隣に座って母と転校生のやりとりを聞きながら転校生に同情していた。


「莉桜菜ちゃんは、今年から来たの?」
「はい、転校してきました」
「そうなの。どの辺りに住んでいるの?」
「さっき私が立っていた場所から5分くらいのところです」


だんだんと慣れてきたのか母さんの質問にすぐに返すようになってきている。
俺はそっちのけで他愛のない話に花を咲かせている2人を横に、車の窓から見える景色をばんやりと眺めていた。
この車は、一体どこに向かっているんだろう。
俺も見たことのない景色になってきていた。