車が止まったので、俺は車の窓を開けた。


「おい」


呼んでも、転校生は気づかない。
俺は、もう一度呼ぼうとしたが、その前に母さんに口を挟まれた。


「おい、じゃなくて名前で呼んであげなさい」
「え?」
「おい、じゃ誰か分からないでしょ」
「・・・」


前のミラー越しに睨まれて俺は小さくため息をついた。
そして、口を開けて、一度閉じる。
あれ、転校生の名前ってなんだったっけ?
塩田・・・確か。


「莉桜菜」


名前を呼んだ。
呼んでみてなんだか恥ずかしく感じた。
顔に熱が集まるのを感じる。
名前を呼ばれた転校生は、ハッとしてキョロキョロと顔を動かして声の主を探す素振りを見せる。
俺は、仕方なく、車から降りてからもう一度名前を呼んだ。


「莉桜菜」
「!真司君、おはよ」
「はよ。待った?」
「ううん、全然」


転校生はにこやかな笑みを浮かべた。
私服姿の転校生は、いつもと雰囲気が少し違うように感じる。
よく見れば、化粧もしているようだ。
こう見ると、女の子なんだと思った。


「今日は、どこに連れて行ってくれるの?」
「あー・・・と、俺は分からない」
「え?」
「ごめん、なんか親が・・・」


ぷっぷ、と車のクラクションが響く。
振り返ると、母さんが手招きしている。