あなたは彼女が遠慮しようと、もう立川まで乗せて帰る決心をしていました。彼女にとってあなたの案が一番良いに決まっていますし、Uターンを終えた今では、住宅地のATMへ寄ってから駅へ向かう方があなたも手間だからです。
むしろ、躊躇されることが面倒だから、先にUターンをしたのでしょう。

彼女はまだ自分の身なりの汚さを気にしていました。隣のあなたは潔癖そうに見えますし、実際のところ潔癖です。先ほどから携帯電話の画面を逐一拭きますし、運転席と助手席の間にあるドリンクホルダーには、埃ひとつ、手垢ひとつ付いていません。

しかし、あなたは、彼女のことを、汚いといって嫌ってはいないはずです。あなたが嫌うのは、あなたが潔癖であることに気付かず、悪意なく汚していく人間ですから。
あなたにとって重要なのは、現在の身なりを綺麗にしているかどうかではなく、雑菌と自分の体との距離感を意識できているかどうかなので、シートと素肌の間にハンカチを敷いた彼女なら、それができていると判断できました。

「立川まで……本当に、いいんですか?」

「色々と寄って駅へ送り届けるより、俺はその方が楽です」

「すみません。では……お願いします」

「はい」

早朝の海辺をドライブする趣味を続けて三年、あなたはこのコースの最中に、初めて女性を乗せました。そしてふたりとも不本意な顔をしていますが、朝陽はのぼり、風は爽やかに吹いています。
あなたと彼女の奇妙なドライブが始まったのです。