「本当ですか?どんな?」

「住宅地の中に入れば朝六時からやっているATMがあります。そこで金をおろして、駅へ行く。そこまでなら付き合えます」

「いいんですか?」

あなたは携帯を取り出し、片手で電車のアプリをタップします。少し近づいて覗きこむ彼女からは、濃い潮の香りがしましたが、ここ一帯の匂いと混じっているので、気にはなりませんでした。

「ただ、電車の時間があるのか微妙ですね。自宅の最寄り駅はどこですか」

「屋代から……色々乗って、最寄りの立川まで帰りたいんです」

あなたの手が止まります。アプリに駅名を入力している途中でしたが、あなたは画面を消しました。

「それって、東京の立川」

「はい」

携帯をしまい、エンジンをかけます。プランを決めたあなたの様子に、彼女は怪訝そうでした。

「……なら、このまま、俺の車で立川まで帰るって方法もあります」

「え?」

あなたはハザードランプを消し、後方を確認すると、思い切りハンドルを切りました。運転は昔から上手です。あなたの運転中の冷静さ、丁寧さは、オープンカーを乗りまわす男としては珍しいものです。

ハンドルを三回転させてからアクセルを踏み、彼女の体を揺らさず、しかし素早く、何もない車線でUターンをしてみせました。そのまま戻り車線に沿って、来たときと同じように綺麗な走行を始めるのです。

「え、あの、立川までって、どういうことですか?ここから二時間くらいかかると思うんですけど」

「俺も立川から来たんです。もう帰ろうとしていたところなので、かまいません」

「え、え……」