「ん……」

寝ぼけたままシートの上で寝返りを打とうとした彼女は、それでも違和感に気づきました。シートベルトでガードされていないので、体が自由なのです。

「………ん、えっ!」

続いて彼女は飛び起きました。近くにあったあなたの顔に息を詰まらせ、そして移り変わらない、見覚えのある窓の外の景色に絶句しています。

「着きました。あのマンションで合ってますか?」

エンジン音がしない分、車内は静かで、あなたの声もよく響きます。

「は、は、はい!すみません、私、寝ちゃった……っていうか、マンションの場所まで……」

「住所は確認していたので、何となく分かりました。合っていたなら良かったです」

「すみません……え、ここって、パーキングですか!?」

慌てふためく彼女の腕をポンポンと叩いて、あなたは優しく「落ち着いて」と言いました。あなたに触れられると、彼女は魂が抜けていくようにシートに背を戻していきます。
冷静なあなたの顔を前にして、彼女はへろへろと肩を落としました。

「お、お、起こしてもらって良かったのに……」

「起こしましたけど、起きなかったので」

「す、すみません……じゃなくて、もっと無理やり!乱暴にでも!蹴飛ばして車から落としたってオッケーなんですから!」

“蹴飛ばして”と言ったのに、何故かグーパンチのジェスチャーをしている彼女を見て、あなたは少し笑いました。笑いながら、「そんなことできませんよ」と答えたのです。