「十キロ、ですか……」

「海岸沿いから離れて、山道にも入ります。歩くのはやめた方がいいと思いますが」

「そうですね……」

「コンビニまでなら乗せていきましょうか」

それは消去法でしたから、彼女にとっても、あなたにとっても。ふたりとも不本意な、歪んだ顔をしていました。
特に彼女なんて、あなたのその完璧な休日に同乗するにはあまりにボロボロでしたので、助手席に座ることを躊躇われたのでしょう。

「ありがとうございます……。でも、私……今、結構汚ないですから、こんな綺麗な車には、ちょっと……」

あなたは少し彼女への嫌悪が減りました。あなたは背徳的なことを好みます。女性が自分のことを汚いと言ったことに趣を感じたのです。谷間を見せて助手席に座られることより、あなたはよほどそそられました。

「かまいません。どうぞ」

そう言ったものの、彼女が控えめに助手席のドアを開け、足をひとつ乗せたとき、あなたの表情は強張ります。彼女もそれを感じ、乗せた足を戻しました。
彼女の平たいパンプスの足は、あなたが思っていた以上に砂だらけだったのです。

同じ砂の粒子が、髪にもたくさんついています。砂の混じった風に長い時間包まれていたのでしょう。
革張りのシートが砂をパンパン弾き、それは先ほどまでのエロスなど、すぐにかき消していきました。

「すみません、やっぱり、大丈夫です……」

「いいから、乗ってください」

あなたは実は紳士的な男ではありませんが、あまりに紳士的でない振る舞いをすることには抵抗があるのです。一度足を乗せた彼女を置いて、この場を立ち去ることはできません。